ε-δ論法。私は、こう理解しました。

 数学や物理が好きで意気揚々と理系の大学に入ることが出来たのですが、いきなり大きな壁にぶつかってしました。それが ε-δ論法です。
$ 4 x^{3} + 7 x + 1 $とか$ \sin x $とか$ \exp x $とか、まったく数式が出てきません。それどころか “ε, δ”などの見たこともないギリシャ文字が出てくるのです。ぜんぜん分からない?本当に役に立つの?

 役に立つんです! ε-δ論法は極限、すなわち「限りなく近づく」ということを正確かつ厳密に定義するために必要な論法です。


 複素関数論、位相空間論、測度論、関数解析を勉強すれば、 ε-δ論法が如何に重要であるか分かります。

このブログでは ε-δ論法について解説しています。このブログを読むことでε-δ論法に対する理解度が上がれば、幸いに思います。

ε-δ論法。私は、こう理解しました。

数学における「任意」とは

 はじめに数学における「任意」という言葉の意味を正確に理解する必要があります。任意(arbitrary)という言葉を検索すると、思いのままに任せるとか、当人の自由意志に任せるという意味があると出てきます。数学における任意とは、特に選び方を固定しないことを意味します。例えば、集合Aの任意の要素という場合「集合Aのどの要素でも」とか「集合Aのいずれの要素でも」という意味になります。この場合、「集合Aのすべての要素」と表現しても同じだと考えてがちですが、微妙に違いがあります。

「偶数全体の集合のすべての要素は、2で割り切れる」
「偶数全体の集合の任意の要素は、2で割り切れる」
と記述した場合は、同じ意味で用いられますが、

「開区間の上のすべての点において連続である」
「開区間の上の任意の点において連続である」
と記述した場合は、全く異なる意味で用います。
  この場合の任意とは、開区間の上の点を無作為(ランダム)に選んで固定するという意味で用います。
「開区間の上の任意の点で連続である。故に、開区間の上のすべての点で連続である。」
と証明することが、数学における常套手段です。

0に限りなく近い値

 はじめに、次の様な集合を考えます。
\[
A = \{ x \in \mathbf{ R } | 0 < x < 1 \}
\]

いま、\( \varepsilon \)を集合 A の任意の要素とします。すなわち、集合 A の要素の中から無作為に一つ選んだ値 \( \varepsilon \) 固定します。
このとき、\( \varepsilon \) の十分の一、百分の一も集合 A の要素であることは確かですから

\[
\delta < \varepsilon
\]

を満たす集合 A の要素 \( \delta \) が存在します。

この様に、どんなに小さな正の実数に対しても、それより小さな実数が必ず存在すると定義することにより「0に限りなく近い」を表現します。

このことが、「\( \varepsilon – \delta \)論法」の基本だと考えます。

本の紹介「ε-δ論法とその形成」

本書の目的は、ε-δ論法の歴史を振り返ることにより,この論法の理解を深めてもらうことにあります。コーシーからワイエルシュトラスにいたる時期のε-δ論法による微分積分学の歴史的発展に焦点をあててあります。連続性・微分可能性,2変数関数の連続性はもとより,ε-δ論法でなければ捉えられない一様収束・一様連続が認識される過程については,特に重点をおかれています。歴史を知らなければ気づかない数学への新たな認識を呼び起こすことができることと思います。

第1章 ε-δ論法とその前史
第2章 「伝説」の検討:コーシーと厳密な解析学、ε-δ論法
第3章 一様性の概念とε-δ論法
第4章 ワイエルシュトラスによる微分学の転換
第5章 今日の枠組みへ

数列の極限( \( \varepsilon – N \)論法 )

数列

\[
x_{n} = \frac{ 1 }{ n } \quad n = 1, 2, 3, \cdots
\]

を考えます。この数列は 0 に収束します。すなわち

\[
\lim_{ n \to \infty } x_{ n } = 0
\]

となります。

ここで、前の節で記述した \( \delta \) の代わりに \( \frac{ 1 }{ N } \) を用います。但し \( N \) は自然数とします。

任意の \( \varepsilon > 0 \) に対して
\[
\frac{ 1 }{ N } < \varepsilon
\]
を満たす自然数 \( N \) が必ず存在します。

例えば、\( \varepsilon = 0.01 \) の場合には \( N = 100 + 1 \) とすれば
\[
\frac{ 1 }{ N } = \frac{ 1 }{ 100 + 1 } < 0.01 = \varepsilon
\]
が成り立ちます。また、数列の作り方から
\[
x_{ n } < x_{ n – 1 } \quad n = 2, \, 3, \, \cdots
\]
が成り立つことにより
\[
x_{ n } = \frac{ 1 }{ n } < \varepsilon \quad n > N
\]
が成り立ちます。
ここから、一般の数列の話になります。数列\( x_{ n } \)が
\[
\lim_{ n \to \infty } x_{ n } = 0
\]
を満たすとき、任意の\( \varepsilon > 0 \)に対して
\[
| x_{ n } | < \varepsilon
\]
を満たす自然数\( \, n \, \)が無限個存在します。その中で添え字番号が連番となる番号の中で、最も小さい番号を\( \, N \, \)とすれば
\[
| x_{ n } | < \varepsilon \quad n > N
\]
が成り立ちます。

数列 \( x_{ n } \)が \( x_{ 0 } \)に収束するとき、数列 \( x_{ n } – x_{ 0 } \)は 0に収束するから

定義(数列の極限)

\( \displaystyle \{ x_{ n } \}_{ n = 1 }^{ \infty } \)を実数の列, \( x_{ 0 } \)を実数とする. 任意の\( \, \varepsilon > 0 \)に対して \begin{align} | x_{ n } – x_{ 0 } | < \varepsilon \quad n \geq N \end{align} を満たす自然数\( \, N \)が存在するとき, 数列\( \displaystyle \{ x_{ n } \}_{ n = 1 }^{ \infty } \)は \( x_{ 0 } \)に収束するといい, このとき記号で \begin{align} \lim_{ n \to \infty } x_{ n } = x_{ 0 } \end{align} と記す.

連続関数( \( \varepsilon – \delta \) 論法 )

ここでは,数列の極限により関数の連続性を一旦定義します.その定義と同値な条件を\( \varepsilon – \delta \)論法を記述し,同値であることを証明した後,改めて関数が連続であることを再定義します.

定義(関数の連続性)

\( f(x) \)を開区間\( \, I \)の上で定義された関数とする. \( f(x) \)が\( \, I \)の上の点\( \, x_{ 0 } \)において連続であるとは,\( \, x_{ 0 } \)に収束する 任意の数列\( \displaystyle \{ x_{ n } \}_{ n = 1 }^{ \infty } \)に対して \begin{align} \lim_{ n \to \infty } f( x_{ n } ) = f( x_{ 0 } ) \end{align} が成り立つことである.



定理(連続になるための必要十分条件)

関数\( f(x) \)が\( \, I \)の上の点\( \, x_{ 0 } \)において連続になるための必要十分条件は, 任意の\( \, \varepsilon > 0 \)に対して,ある\( \, \delta > 0 \)が存在して \begin{align} | x – x_{ 0 } | < \delta \end{align} ならば \begin{align} | f( x ) - f( x_{ 0 } ) | < \varepsilon \end{align} が成り立つことである.


証明に関しては、以下のドキュメントを参照してください。



第1章 基本的な概念
第2章 微分法
第3章 積分法
第4章 無限級数 一様収束
第5章 解析函数,とくに初等函数
第6章 Fourier式展開
第7章 微分法の続き(陰伏函数)
第8章 積分法(多変数)
第9章 Lebesgue積分
附録 I 無理数論
附録 II 二,三の特異な曲線

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